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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)4564号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

四損害賠償額について判断する。

(一) 本件のように株券が横領されて処分された場合の損害額について、次のとおり解するのが相当である。

(1) 株券の所有者は、第三取得者の善意取得すなわち株主権の確定的喪失の有無の判断をまつまでもなく、株式の名義書換によつて株主権を失つたことになり、そのときの株式の時価によつて、横領者に対し賠償請求ができる。

(2) 横領者は、株券の所有者の株主権の喪失の危険性がないとか、その回復が容易であることの証拠を提出したときには、その賠償責任を免れることができる。

(3) しかし、横領者がその名義を自己に書き換えただけの場合には、株券の所有者は、横領者に株券の返還を請求して株主名簿の名義を自己の名義に書き換える法的手段があるから、この場合の株券の所有者の損害は、株式の時価相当額ではなく、株券の占有や名義回復に必要な費用、株券がないため株主権の行使が妨げられたことによる損害などに限られる。

(4) 横領者が他人の株券の処分をしたことは認めながら、株券の所有者の要求に拘らず、その処分をした時期、名義書換の有無、取扱いを依頼した証券会社の名前など、株券の所有者が時価を証明するために必要な手掛りを何一つ与えようとしない場合には、株券の所有者としては、信義則上、横領者に対し、賠償請求をした時点の株式の時価によつてその損害額とすることも、やむをえないものとして許される。

(5) 横領者は、自己が他に処分したため株式の名義が書き換えられた日時を明らかにし、その時点の方が株式の時価が低いことの証拠を提出して、賠償額の低下をはかることができる。株式の名義がまだ横領者の名義に書き換えられただけであるなら、そのことの証拠を提出すれば、(3)と同じ扱いになる。

(二) この観点に立つて本件の損害額を算定する。

(別表1<省略>の株券)

(1) 別表1の最上段に記載された株券の名義が書き換えられたのは、昭和四八年九月一四日であることを、原告は自認しているから、この日は、原告が本件株券を贈与された同年一一月三日より前のことに属する。そうすると、原告は、右株式の処分について被害者の地位になかつたとしなければならない。

(2) 別表1の住友金属工業株式会社の分八、〇〇〇株のうち五、〇〇〇株は、昭和四九年二月一日に、神戸製鋼所の七七一株は同年七月八日に、それぞれ被告名義に名義書換のあつたことが、<証拠>によつて認められる。そうして、その後これが被告から第三者に名義書換のあつたことが認められる証拠はない。そうすると、この五、〇〇〇株及び七七一株の時価相当額が直ちに原告の損害にならないことは前述した。そうして、原告は、名義回復に要した費用や株券のないことにより株主権の行使ができなかつたことによる損害などを主張、立証しない。したがつて、この五、〇〇〇株及び七七一株の賠償請求は採用できない。

(3) 別表1のそのほかの株券が、原告主張の日に名義書換があり、そのときの時価が、別表2の記載の時価であることは、<証拠>によつて認められ、この認定に反する証拠はない。

したがつて、その合計額は、金六二三万三、三一五円(七一九万八、七三六円―二五万四、〇〇〇円―五九万五、〇〇〇円―一一万六、四二一円)になる。

(4) 被告は、この時価から売買手数料及び譲渡税を控除すべきであると主張している。

ところで、無権限で他人の所有物を処分した場合には、所有者は、処分者に対し、その物に代る填補賠償が請求できるから、それは、所有物の交換価値であり、それから被告が主張する経費を控除すべき理はない。したがつて、被告のこの主張は、採用しない。

(別表3の株券)

別表3の株券の昭和五四年八月三一日ないし同年九月三日の時価が、原告主張どおりであることは、<証拠>によつて認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、別表3の株券の同年九月四日の時価は、合計金一三二万七、七二〇円を下らないことになる。

(古崎慶長 井関正裕 小佐田潔)

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